第1章 スーツ | 収録写真数 |
最初は特にこれといった印象もなく写真を撮り始めた。頭の片隅に引っ掛かるものはあったが、ただの気のせいだと思っていた。しかし、撮っているうちに何かが息を吹き返すような不思議な感覚に捉えられた。スーツの背中から、それは亡霊のように立ち上ってくる気配がした。 | 6枚 |
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第2章 カジュアル | |
記憶を辿るのも不可能なくらい、遠い昔のことだった。おそらく、小学校に入学した頃だと思う。僕は枕の下に、ある写真を隠していた。いまは誰の写真だったかすら思い出せない。しかし、それが僕にとって何よりも大事な宝物だったことは覚えている。その写真を見ると、スーッと夢の世界に引き込まれるように幸福感で満たされるのだ。その人の顔を見ているだけで幸せになれる。そういう不思議な写真だった。 | 11枚 |
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第3章 椅子 | |
顔の造りの一部、あるいは表情のちょっとしたニュアンスが似ているだけなのかもしれない。しかし、もう何十年も忘れていたあの感覚を呼び覚ますものが目の前に確かにあった。何が起こっても絶対に手に入れることができないと思い込んでいたもの。それが目の前で自ら秘密の扉を開き、好きなだけ見て、欲しいだけ持って行っていいよと囁いていた。そんなことがあり得るだろうか?僕は現実感が薄れていくのを感じながら、夢中でシャッターを切っていた。 | 12枚 |
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第4章 床 | |
ある日突然、あれはこういうことだったんだ、と分かる瞬間がある。いま、目の前にその回答があった。スーツの下に隠されていた秘密の世界。何にも覆われていない肉体。勃起した一物。苦悶の表情。それらが長い間暗闇に眠っていた回答だったのだ。あの、神聖な威厳を持った、誰だか忘れてしまった紳士の、決して暴かれないはずの秘密がいま、白昼の太陽のように明るい照明の下にすっかり曝け出されていた。 | 9枚 |
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第5章 ベッド | |
すべてが晒された後に残っているものは、もはや羞恥心を煽る卑猥なポーズを次々と要求することによって、屈辱感をエスカレートさせることだけだった。ベッドの上で繰り広げられるあらゆる痴態、嬌態、悶絶する姿態とともに、肉体の隅々が容赦なく暴露されていった。そして、恥部から神秘性が失われると同時に、肉体をオーラのように覆っていた威厳も玉葱の皮を剥くように剥ぎ取られていった。 | 12枚 |
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第6章 犬 | |
威厳を剥ぎ取られた紳士は、顔と全身に落書きをされ、首輪を嵌められ、口には猿轡をされて、犬のように四つん這いで洗面器に跨ったポーズで尻の穴を撮影された。さらには両乳首にバイブをぶら下げられ、自らそのスイッチを入れて自慰までさせられるという徹底的な辱めを受けた。その一連の写真は、まさに社会的地位と父親としての尊厳を持つ大人の男の自尊心が粉々に崩壊する過程の記録だった。 | 12枚 |
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第7章 鏡 | |
男は威厳と自尊心を奪われただけでなく、白いものの混じった陰毛まできれいに剃り上げられ、その寂しくなった下半身を自ら鏡に映して自分の屈辱的な姿を正視する責め苦に耐えなければならなかった。大人の印である陰毛を失い、幼児の性器のように付け根まで剥き出しになりながら、異様に大きくずる剥けの亀頭が付いた一物は、すべてを奪われた男の性をグロテスクに強調していた。 | 11枚 |
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第8章 縄 | |
男は誰かに所有されるために縛られて自由を奪われ、床に転がされて、さらにはそのまま卑猥な形に睾丸を縛り上げられて無理やり勃起させられ、晒し物になったままで射精までさせられた。もはや肉体的にも精神的にも独立性を完全に剥奪されたように見えた。 | 15枚 |
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第9章 コスプレ | |
しかし、本当にあの日の、無意識の根底にまで到達するような強烈な何かを写真に収めることができたのだろうか?確かにあの日と同じ部分が刺激され、永久に見ることができないと思っていた続編を目にすることはできた。でも、それですべてを手に入れたことにはならない。やはり、それは被写体が映し出した幻影でしかなく、あの感覚の大元はこの被写体である男性の中には存在せず、あるいはもしかするとこの世のどこにも存在しないのかもしれない。 | 12枚 |
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| 計100枚 |